怪しげな薬物2

286 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2012/07/20(金) 06:49:00.24 ID:a3CFbnfL [1/6]
>>272
ニャル子さんとハス太ー君の企みか。
……ごめん、何か違うのになっちゃったわ。その上綺麗なニャル子さんだしw

287 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2012/07/20(金) 06:49:31.32 ID:a3CFbnfL [2/6]
「ニャル子ちゃん、この臭い……」
居間の傍を通りかかったハス太が、怪訝な表情でキッチンのニャル子に問い詰める。
「ああ、ハス太君は鼻が良かったですよね。バレてしまいましたか」
取り立てて隠すつもりも無いのか、ニャル子はあっさりと企みの存在をほのめかす。
「これって、あの薬だよねぇ。まひろくんに食べさせるつもりなの?」
あの薬……地球人の様な、虚弱貧弱な生命体に対して『新たな進化』を誘発する薬……手っ取り早く、
そしてニャル子の求める効果を端的に表現すると、不老長寿の薬……
「こんなのすぐにばれちゃうよ!怒られて、嫌われて……お家から追い出されちゃったらどうするの!」
ハス太がたしなめる。それは十分に考えられる上、ニャル子にとって極めて深刻な事態になるはずだ。
その制裁をにおわせれば、幾ら無鉄砲な同級生も諦めてくれるに違いない。
「ハス太君は、余り地球のテレビ番組を見ないですよねぇ」
「ニャル子ちゃん、煙に巻くつも……」
「地球のエンタメは良いですよ。アニメも特撮物も、本当に楽しいですよ!」
ハス太の台詞を遮って、ニャル子は、まるで独り言かのように語り始める。
「それで、そのままニュース番組を見る事があるんですよ。ええ、地球の勉強ですよね」
ニャル子の表情を読み取るのは、ハス太にとって難しかった。
高揚感のある顔のように思えて、どこか寂しそうな……むしろ辛そうな思いも抱えている気もする。

288 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2012/07/20(金) 06:50:02.69 ID:a3CFbnfL [3/6]
「たまにですね、そのニュースで訃報があるんですよ。八十幾つで誰それが……って。
たったの八十、九十!?そんな短いんですか!」
それが短いと感じるのは、ハス太も同じであった。
「ですから、真尋さんもすぐに……」
この国の言葉では、たったの一文字。それが、一番大切な名前に続けて口にする事が出来なかった。
「でも、でも……」
反論をしたくても、説得力のある言葉が出てこない。語彙が少ないのは自覚しているが、
おそらくそれだけでは無いだろう
「怒られる覚悟も、嫌われる覚悟も、ええ、追い出される覚悟だって有りますよ」
ニャル子はあっさりと、何もかも甘受すると言い切る。
「その時はハス太君、真尋さんの事をお願いしますね」
「ニャ、ニャル子ちゃん?」
互いに恋敵であったはずなのに、これはどうした事だろうか。
「真尋さんが末永く、健康でいられるのでしたら、私なんて、どうでもいいんです」
らしくも無く、悟り切ったかのようなニャル子。彼女を見て、聞いているハス太の方が辛くなる程に。
「な、なら、ぼくが薬を混ぜた事にするよ。ほら、ぼくならそんなに怒られないかも」
さすがに後者は甘い考えだと分かりつつ、身代わりを申し出る。

289 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2012/07/20(金) 06:50:40.62 ID:a3CFbnfL [4/6]
「優しいですねハス太君。でも、真尋さんの運命を変えてしまうのですよ。
他の誰にも責任を押しつけるつもりはありません」
「ニャル子ちゃん……」
一途すぎるその思いに、止めようとするのですら、罪悪感を感じてしまう。
突如、視界の外からコンコンと壁をノックする音が響く。意図的に自らの存在を気付かせるための行為だ。
「ま、真尋さん!?」
ニャル子が驚く。驚き、その場にへたり込んでしまう。
「ど、どこからお聞きになっていました……」
顔を伏せて、おそるおそる尋ねる。
「薬がどうのこうのから。縁起でも無い単語だから気になってな」
それは全ての計画が露見してしまった、を意味していた。
ニャル子に真尋が近づく。
覚悟をしていたとは言え、それが想像から現実になるのを感じると、思わず体をすくめる。
「ニャル子ちゃんを許してあげてっ!」
ハス太が二人の間に割り込み、短いながら腕を広げてニャル子をかばう。
無言のまま、真尋はそっとハス太の頭を撫でて、その小さな体を少しばかり横にずらす。

290 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2012/07/20(金) 06:51:13.97 ID:a3CFbnfL [5/6]
「ニャル子……」
その声はすぐ傍から、上からでは無く触れるほどの間近から聞こえてきた。
意外に思ったニャル子が顔を上げ、真尋を見据える。
真尋はしゃがみ込んでいた。そして、少々姿勢に無理があるものの、ちょうど、ニャル子の頭を
抱きしめる所であった。
「お、怒らないのですか?怒らないのですか?」
ニャル子にとってご褒美としか思えない、真尋の行動にニャル子が驚く。
「一応、僕の事を考えていてくれたんだろう?その上、涙を浮かべている女の子を怒れる訳無いだろ」
「じゃあ、嫌ったりは……」
「嫌ったりも、追い出したりもしない」
「じゃあ、これを食べて……」
少しばかり調子に乗るニャル子。いつものように、いつもの元気を取り戻して。
「それも無い……今のところは……その、将来考えが変わるかも知れない、とだけ言っておく」
ニャル子が思い詰めないように、それだけのつもりで答える。
それだけのつもりであったが、ニャル子の顔を見ると、もうこちらが了承したかのように受け取っている。
今でかつて無い愛らしい笑みとともに。
短いため息をつくと、真尋はもう一度ニャル子を抱きしめた。

  • 最終更新:2014-08-16 14:16:08

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