恋人たちのデートの後は…

352 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2016/06/08(水) 20:54:51.83 ID:672FbgjK
デートに誘った帰りにホテルとかどう?

愛しのニャル子さん

359 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2016/06/26(日) 20:30:03.58 ID:SXsb/QHw
「こ、今度……その、ど、どっか……行かないか……?」

苦労して紡いだ言葉は、練習していたものと大分違っていた。

「……今何と?」

ニャルラトホテプは真顔で聞き返した。
真尋は敗北感と恥ずかしさで、ニャルラトホテプを直視出来ない。

「だから、その……出掛けないかって」

「それは遠い未来のお話し?」

「……今度の日曜日」

「皆でですよね?」

「二人で」

「それは……つまり……?」

「……デート」

「…………」

「…………」

「……今何と?」

ニャルラトホテプは真顔で聞き返した。

360 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2016/06/26(日) 20:32:59.95 ID:SXsb/QHw
「デート?」

「……デート……」

「でぇと?!」

「みーみ!」

「そんなに驚くことでもないだろ……」

真尋は平静を装いつつも、内心失言を悔いていた。
デート当日、八坂家朝の食卓。当事者の一人であるニャルラトホテプは家族(と居候)からの
負のオーラを浴びながら、鼻歌まじりで納豆をコネている。

……どうでも良いことだが、これからデートだと言うのに、
臭いのきつい食べ物を食べるのはどうなのだろうか……。
真尋は同じ大豆の加工食品であっても納豆は避けて冷や奴をチョイスしたのに……

何故?

それは、デートで口臭を気にする自体と言えば……いけないそれ以上は。

「……少年、話しをすり替えないで」

「お豆腐より大事な話しがあるでしょう?」

「な、何も言っていないだろ!」

「まひろくん、目は口ほどにものを言うんだよ」

「みー!」

じゃあ、なんで普段から真尋の意思を察してくれないのか、不公平ではないか。
せっかく付き合っている恋人との逢瀬くらい気を回してくれても……とは言えないのが真尋だった。
真尋は救いを求める様にニャルラトホテプに視線を向ける。

「なぁ、ニャル子お前からも何か……」

その先は言えなかった。
ニャルラトホテプがにこりと微笑む。
見る者を引き付けて止まない魅力的な笑顔だ。

361 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2016/06/26(日) 20:34:52.14 ID:SXsb/QHw
――――

「ささ、真尋さん!張り切って私を連れ回して下さい!」

玄関を飛び出したニャルラトホテプは、くるりとターンを決めて両手を広げる。
大輪の向日葵の様なその笑顔に迎え入れられる様に真尋は八坂家の敷地を後にした。
すかさず右腕がニャルラトホテプの腕に絡み取られる。

「デュフフ」

ニャルラトホテプの暖かさと甘やかな体臭に真尋は心拍数が上昇するのを抑えられない。

そして、

「いってきまーす!」

残像が見えそうな勢いでニャルラトホテプが手を振り、二人は歩き出す。
真尋はと言えば、玄関からの恨めしげな視線を背中に感じ、
我が家が視界から消えるまで生きた心地がしなかった。

「はぁ……まったく、お前は……」

尾行の類が無いことを確認し終えた真尋は、漸く警戒を解いた。

「大丈夫ですよ真尋さん!私のネゴシエーションは完璧です!」

ふんすと鼻息を荒げ胸を張るニャルラトホテプ。

「アレは交渉じゃなくて、買収だ……どーすんだよ帰ってから」

「それは帰ってから考えればいーんですよ!」

身も蓋も無い返事に真尋は再度ため息を吐いた。

362 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2016/06/26(日) 20:36:45.13 ID:SXsb/QHw
「デュフフフフ」

「なんだよ」

「いーえ、べっつにぃー」

真尋の顔を覗き込んでいたかと思うと、ニャルラトホテプは腕を解いて、踊る様に一歩前に出た。
芝居がかった仕種だ。

「ふん……」

総てを見透かされた様な居心地の悪さを感じ、真尋は歩調をはやめる。
追い抜き様、立ち止まったニャルラトホテプの手をやや強引に掴むと、引っ張る様に先を急いだ。

(……舞い上がっていたのかもしれない)

真尋は自戒した。
『今日はニャル子とデートだから』
口をついて出たその言葉は無意識に出たのかどうか、今の真尋には自信がなかった。ただ……

(チラリと覗いた真尋が繋いだ手の先で、だらしの無い笑顔が揺れてる)

今は、この羽根が生えた様に浮かれた気持ちを感じて居たかった。


……こうして二人のデートは始まった。

─ ─ ─ ─ ─ ─ ─

369 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2016/07/04(月) 00:18:48.43 ID:90OoGzjR
「ふんふんっふんふんっ、ふんふっふんふっふ~~ん♪」

「あ~~、あのさ……」

鼻歌も軽やかに店内を見て回るニャルラトホテプに、真尋は怖ず怖ずとついて行く。
周囲の視線を気にしようにも、ニャルラトホテプの後ろ姿から目を離すと
店の『商品』が嫌でも目に入り、どうしても彼女ばかりを見るしかない。

「真尋さん。これなんかどうです?」

「おわっ!」

振り向いたニャルラトホテプとバッチリ目が合った真尋は思わず声を上げてしまう。

「……!!」

真尋は口をつぐむと、左右をキョロキョロ。
幸い気に止める者は誰も居なかった。
視線の合った店員が柔らかく微笑み会釈。
真尋は赤面し、俯いた。

「真尋さん?」

ニャルラトホテプが気遣わし気に真尋の顔を覗いた。

「い、いいんじゃ……ないかな……似合う……と、思う」

気の動転した真尋はそう言うと、天井を見上げた。

「……ほんとですか?!」

嬉しそうな彼女の声に真尋は適当に相槌を打つ事しか出来ない。

「じゃあ、これとお揃いのブラ探して来ますね!」

「あ、おい!ニャル子!」

脱兎の如く陳列棚の狭間に消えるニャルラトホテプ。
真尋は魅惑的なショーツの並ぶそこに一人残された。

真尋は今後どんなにあざとくウソ泣きされても、どんなにかわいらしい演技でおねだりされても
ランジェリーショップには金輪際行くまいと心に誓った。

「真尋さん、試着してみましょうか?」

「ふざけんな!」

先程の店員が一際賑やか恋人達を見てクスリと微笑んだ。

370 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2016/07/04(月) 00:19:47.92 ID:90OoGzjR
ニャルラトホテプがわざとらしくニーソックスを直すと、
吸い寄せられる様に魅惑の領域に目が行ってしまうのは男の性だろう。


……普段であればそれでも絶対に見るまいとする真尋だったが、
今回ばかりはそうはいかなかった。

「真尋さん、もうちょい右!右です!」

「こ、こうか?」

ニャルラトホテプを肩車した真尋は、彼女からの指示に応えて右に一歩。

「も少し前です」

前に半歩。ん~~。と、かわいらしい声が聞こえ、後頭部に柔らかく
かつ健康的に引き締まったお腹が当たる感触。
やがて伸身していた上体が戻り、お尻の重みが肩に。

「取れたか?」

「はいな!」

真尋はしゃがみ込むと掴んでいた太股をはなす。
スルスルと滑らかな身のこなしで背中から降りた彼女は、
不安気に見ていた男の子に元気なVサインを送る。

「ありがとう、おねぇちゃん!」

歳の頃は小学生低学年といったところか……風船を受け取ると、
ニャルラトホテプに頭を撫でられ、嬉しそうにはにかんだ。
そこに地下街で出くわした珍事を遠巻きにするギャラリーを掻き分け、
真尋が事情を説明すると、お互いザ・日本人と言った体でペコペコと頭を下げ合った。
事件の当事者達はと言うと、どや顔のVサインを交わし合い、
そして親子の姿は人の波に消えていった。

371 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2016/07/04(月) 00:21:05.52 ID:90OoGzjR
「いやぁ、良いことをしたあとの一杯は格別ですなぁ~!」

ニャルラトホテプはストローを口から離して、行儀悪くぷはあと息を吐いた。
地下街にある某ファーストフード店で向かい合い、真尋はマヨネーズと
牛脂の味しかしない、新商品のバーガーを食べていた。

「一日一膳とは良く言ったものですね!ご飯が美味しいです!」

そう言うとバーガーにかじりつくニャルラトホテプ。

「『善』だ『善』……大体毎日悪さばかりしてたら意味ないだろ」

とは言いつつも、内心真尋は暖かい気持ちに包まれていた。
地下街の天井をさ迷う風船を見上げる男の子を見付けたのはニャルラトホテプだった。
周りの人達がそうする様に通り過ぎかけた真尋を彼女が引き留めたのだ。

「まぁ、わざわざ肩車をして頂かなくても、私ならひとっ跳びでしたけどねっ!」

「ばぁか、お前あんなところで世界記録出すつもりかよ……」

ふんすと鼻息を荒げるニャルラトホテプを嗜める。

「……それに」

「それに?」

「……いや、何でもない」

そう言うと真尋はストローをくわえて、程よく溶けだした甘ったるいシェイクを飲んだ。
ニャルラトホテプはそれ以上詮索はせず、山盛りのポテトを啄んだ。
二人で食べるには些か量が多かったが、問題は無いだろう。
誘った手前、今日のランチは真尋が持つつもりだったが、
所詮は千数百円の出費だ……幾分安く付いたものだと内心ホッとする。

(ひょっとして、気遣かってくれたのかな……)

お目当てだと言う、おまけのキーホルダーを嬉しそうに眺める彼女にしばし見惚れる真尋だったが、

ちゃららら~~ちゃらららら~~♪

「おっと、珠緒さんからメールですね」

原点にして頂点の様な『そのもの、』としか言えないどこかノスタルジックなメロディだ。
現実に引き戻された真尋は勝手にのろけ始めた自分を見出だし、頭を掻いた。

372 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2016/07/04(月) 00:21:36.40 ID:90OoGzjR
「ほうほう……ふむ……へぇ……お?おお……」

刻一刻と変わる千の無貌を眺めつつ、真尋はこの後の事に思いを馳せた。
浮いた分の軍資金をどうするか……ゲームセンター、カラオケ、映画……。
皆で行く機会は有ったが、いざ二人きりでと思うと、途端に新鮮なものに感じるから不思議だ。
以前のデートは件の暮井珠緒の立てたコースに沿ったプランだったが、今日はそうではない。
全てが真尋と、ニャルラトホテプで決めていくものだ……二人きりで……。
顔が熱くなるのが分かった。

……しかし、その甘やかな思考も直ぐに終わりを告げた。

「真尋さん真尋さん!」

目をキラキラと輝かせたニャルラトホテプが真尋にスマホの画面を見せてくる。

「これ、私達ですよ!」

「へ?……え?なになに……『バカっプルはけーん』?」

誰かのSNSとおぼしきその画面は明らかに暮井珠緒のものでは無かった。
おそらく届いたメールからジャンプしたものだろう。
……問題はそこにアップロードされていた画像だ。

少女を肩車する少年の写真。

画像は修正され、目元は隠されていた。
しかし、モデルの様にスラリと伸び、黒いニーソックスに包まれた脚線。
白のノースリーブのシャツに黒のミニスカート、赤いネクタイ、美しい銀髪に、一房のアホ毛……。
ニャルラトホテプに言われるまでもなく、それはニャルラトホテプと真尋だった。

373 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2016/07/04(月) 00:23:25.36 ID:90OoGzjR
昼食を済ませた真尋達は地下を出て公園を歩いていた。
街を南北に区切るシンボル的な公園である。


「善哉。善哉。いやぁ、情けは人の為ならずとは良く言ったものですな~」

珍しく諺を正しく使うニャルラトホテプだったが、対照的に真尋の心は暗澹たるものだった。
見られていた。撮られていた。晒されていた……それはまだ良い、
問題はその事を知らせてきたのが、よりにもよって『歩くスピーカー』からだと言うことである。

「……真尋さん?」

あれこれとよくない事ばかりを考えてしまう真尋だったが、
心配そうに見つめてくるニャルラトホテプに気付いた。

「……何でもないよ」

真尋は笑顔を向けた。
ニャルラトホテプの頭を撫でてやると、その心配顔は瞬く間に溶けた様なしまりのない笑顔に変わった。
過ぎた事は忘れよう……折角のデートである。

愛しい少女が喜んでいるのならそれで良いではないか。

……後の事は後で考えよう。


「珍しくコトワザの間違いに突っ込まないんですね……」

「いや、あってるから……」

真尋の笑顔が苦笑に変わった。

374 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2016/07/04(月) 00:24:11.82 ID:90OoGzjR
―――

「面白い映画でしたね!」

映画館を出るとニャルラトホテプはくるりとターンし笑顔を向けた。
デートで観るには些かムードに欠ける内容だったが、当人が喜んでいるのだ、良しとしよう。
レディースディに学生割引もついてお財布にも優しいスポットだった。
これならば、小まめに来ても良いかもしれない……映画の内容にもよるが……

「俺は不死身の杉本だ~~!」

肩膝をついて銃を構える真似。
先程見終わった映画の印象的な場面だ。
劇中では男臭い俳優による鬼気迫る迫力の演技も女の子がすると途端に可愛らしいお遊戯だ。
そして彼女の場合は、本人は何処までも真剣に成り切っているからタチが悪い。
通行人達がこの残念な美少女と真尋に微笑みながら去っていく。
耐え兼ねた真尋はニャルラトホテプを引き立てると、
ギャラリーの出来かけた人の輪からニャルラトホテプと抜け出し、早足にその場を後にした。

「ほら、恥ずかしいだろ。行くぞ!」

「ああん!真尋さ~ん」

見世物が消えると人の輪は崩れ、そして雑然とした流れになった。

375 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2016/07/04(月) 00:27:05.38 ID:90OoGzjR
「そろそろ今日はお開きですかね……」

……そうニャルラトホテプが切り出したのは、日の傾きかけ頃だ。

二人は繁華街を抜けて人影の疎らになりつつある川岸を歩いていた。
芝生と歩道で整備されマラソンコースにもなる憩いの場だ。

「……そうだな」

「………」

何処かそわそわとしたニャルラトホテプの仕種……。
名残惜しさの滲み出るその横顔には、それとは別な
何かを待ちかねていたかの様な期待の色が浮いていた。

5分程歩いた頃、
先程から深呼吸をしてタイミングを見計らっていたニャルラトホテプが、立ち止まり、
思い切って口を開いた。

「真尋さ「なぁ、ニャル子…」




「キス……しようか」

「は……あ、あう……あ……」

何事かを言いかけたニャルラトホテプが口をぱくぱくとさせ、

そして、二度頷いた。

376 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2016/07/04(月) 00:29:51.08 ID:90OoGzjR
―――

「ふぃ~~なんとか雨宿り出来ましたね~~!」

コンビニエンスストアの軒先に待避してきた真尋とニャルラトホテプは、
夜雨に光るネオンを見上げながら身体の雨粒を払い落とした。
突然降り始めた雨の中を駆けて来たサラリーマンが二人に並んだ。
先客も二人、学生がタオルで頭を拭いている。

「当分止みそうにありませんね」

スマホを弄って予報を確認していたニャルラトホテプがぷぅとため息。

「……寒いか?」

見ると剥き出しの肩を抱く様にニャルラトホテプが身体を震わせていた。

「ん、大丈夫で……ひゃ!」

ニャルラトホテプを抱き寄せると真尋は恥ずかし気に視線を外した。
雨に濡れたその身体からは何とも甘やかな匂いがした。

「えへへ……暖かいで、ぺぷちん!」

ずずずと鼻を啜るニャルラトホテプ。いかな夏場と言えど北国の夜は肌寒い。雨の夜は、得に。

真尋はしばし思案するとニャルラトホテプの肩に上着を掛ける。

「あっ……そんな、真尋さんが風邪をひいて……うひゃ!」

言い終わる前に、ニャルラトホテプは意外と引き締まった真尋の腕に抱き上げられていた。
所謂お姫様抱っこである。

「ま、まひっ!」

「……少し、濡れるぞ」

「ふぇ?」

そう言うと真尋は雨の中を駆け出した。

─ ─ ─ ─ ─ ─ ─

381 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2016/07/05(火) 17:09:00.17 ID:dahNdhTM
……ずぶ濡れのまま入店した真尋達を迎えたのは無人のフロアだった。
窓の無い受付の奥には人の気配は有ったが、歯抜けに光るパネルと廊下だけの空間。
光る部屋のパネルに触ると間接照明に照らされた落ち着いた色調の廊下の先、
無人のエレベーターが扉を開いた。
二人は無言でその中に乗り込むと、扉は開いた時と同じくひとりでに閉まり、上昇を開始した。

「……」

「……っ!」

「……」

「……えへへ」

ニャルラトホテプのはにかんだ顔は紅潮しており、濡れた双眸が真尋を見上げる。
真尋が手探りに繋いだ右手と左手とはいつしか指を絡め合い、しっかりと結ばれた。
永遠にこうして居たい……と言う想いと、天井からそんな浮かれた真尋を睥睨する
「目」から逃れたい気持ちとがないまぜのまま、目の前の扉は開かれた。
降りた先は乗ったフロアと同じ造りの廊下で、その突き当たりで矢印がチカチカと点滅している。
窓の無い廊下を進み無音の案内に従って角を曲がると、同じ装飾の扉が居並ぶ廊下に出た。
その一つの扉の上でランプが明滅している。
落ち着いた明かり、落ち着いたBGM、落ち着いた香りの中で、真尋の心拍数は跳ね上がって行く。

チー……カチャリ、扉の前に立つと解除される音。

真尋は、姿の見えない案内係の視線から逃げる様に、漸く得た二人だけの空間に足を踏み入れた。

382 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2016/07/05(火) 17:10:03.11 ID:dahNdhTM
「い、いっやぁ、よく出来ているものですなぁ!」

室内に入ると扉はひとりでに施錠される。

「ここまで誰にも合わない様に配慮されているとは!」

明るいLED光に照らされた室内はパネルでみたよりもずっと広々としており、
ものものしいセキュリティを施された窓を除けば一見普通のホテルの一室である。

「にゃ……にゃはは。おっ!コーヒーとお茶はセルフですって!」

ニャルラトホテプの指差す先には小型の冷蔵庫。中身と値段の書かれたその上の棚には
電気ケトルとフリーのインスタント飲料のセットが置かれていた。

「あのぉ……真尋さん?」

どうにか場を持たせ様としていたニャルラトホテプが言葉に詰まった。
真尋はと言うと、

「ニャル子!」

「真尋さ……」

川岸でよりも強引な口づけに目を見開くニャルラトホテプ。手提げと買物袋とが床に落ちた。

……ともすれば、一方的なそれはしかし、柔らかな抱擁で迎え入れられた。

「んっふ……んん……」

ニャルラトホテプの肩から真尋が掛けた上着がずり落ちる。
その下から現れた白いブラウスは雨に濡れ肌に張り付き、
その下に秘されていた魅惑的な肌と、純白のランジェリーを浮き上がらせる。

「ん……んむ……ニャル……ん」

舌を絡ませ合い、混ざり合った唾液が垂れるのも構わず、真尋は夢中でニャルラトホテプを味わった。
コンビニエンスストアでニャルラトホテプに向けられた視線――。
店内の窓ガラス越しにまで注がれていたそれを思い出し、
真尋の劣情は臨界を迎えた。

383 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2016/07/05(火) 17:10:29.90 ID:dahNdhTM
「ん……!あう……!ここでするんですかぁ!ひゃあ!」

首筋を吸われたニャルラトホテプはびくびくと身体を震わせる。
戸惑いの表情のニャルラトホテプは一度真尋の身体を引き離す。

「真尋さん、先ずはその……シャワーでも」

「……駄目?」

「あぅ……そ、その顔は卑怯ですよぅ」

「ん……」

「あっ……洗わないと……ン……汚い……ですって」

胸元の雨粒とも汗とも付かない水分を口に含む。
背中に回した手の中で柔らかく暖かなニャルラトホテプの肌がうねった。
濡れそぼった衣服の不快さが、心地好い。

「ひゃっ!はぁあ……うひゅっ!」

映画館の前、通りかがりの男が横目に凝視していた白い脇に舌を這わせる。

「っにゃあ!っふ!ひゃあ!」

公園ですれ違ったカップルの男がチラチラと見ていた豊満な胸が真尋の手の中で自在に形を変える。

「っは!……っはぁ!あん……まひ…真尋さん…んッ!」

SNSで見る間にグッドの数が上がっていた二人の写真。
画面越しに数多の視線を集めていたそこを指でなぞる。
見えそうで見えないその奥に、一体どれ程の劣情が注がれたのか……

『イイハナシダナー』、『#若者の善意』、『#二人の共同作業』ひやかす言葉に混じる
『いいふともも』、『#むっちり』、『#そこ替われ』、『……少年、邪魔』、『見え……見え』……

ハンドルネームに秘された匿名の下心に視姦されていたこの肌も、肉も、芳しさも……今は真尋だけのものだ。

384 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2016/07/05(火) 17:15:51.53 ID:dahNdhTM
「ニャル子……!」

「ひっ!ああぁア!」

指で押し拡げたそこから、夥しい愛液が垂れ落ちた。
手を壁に突いたニャルラトホテプは、腰をガクガクと震わせて暴虐に耐える。
真尋はショーツに手を入れると、潤みきった入り口を執拗に責め、
快楽と痛みにわななく肉に爪を立てた。

「ま、真尋さ……怒って……ひゃあっ!」

左脚の太股を抱えられたニャルラトホテプは、困惑と期待で潤んだ瞳を真尋に向ける。

「ごめんニャル子……」

ニャルラトホテプに落ち度はないのはわかっていた。
怯えるその表情に良心の痛みすら感じる。
しかしそれ以上に、理不尽な嫉妬心が真尋の情欲を揺さぶった。

ジーンズから苦労して取り出したペニスがニャルラトホテプのふとももを叩いた。
姿の見えない男達に囲まれるニャルラトホテプを思い浮かべる真尋。

「ああっ!ン!……んあああ!」

膣内に挿し込んだ中指がぐぢゅぐぢゅに熟れた膣ヒダを引っ掻いた。

「くっ!うあ!」

ニャルラトホテプの震える指が真尋自身を握りしめる。
ゆっくり動かせば羽毛の様に優しく、強く嬲れば息も詰まる程速く、きつく。

「あんん!はぁあ!あっ、あっ、あっ……!」

「うっぐ!ニャル子ぉ!」

勃起しきった無数のペニス達が蒸れたニャルラトホテプの芳香を感じ、反り上がる。
ニャルラトホテプの身体中を濡らす水滴がそいつらの放った欲望の残滓と重なった。

(変態かよ、僕は……!)

自己嫌悪を感じながらも真尋は、腰の奥を競り上がってくる熱を止めることは出来なかった。

「うっ!くああぁ!」

385 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2016/07/05(火) 17:19:26.52 ID:dahNdhTM
「あんっ!……ひっ!ふにゃっ!」

ニャルラトホテプの太股とショーツとに濁った汚液が降りかかる。
熱い膣内で指を締め付けるヒダが、そこからも精を搾り上げようと蠢いた。

「……くっ!うぅ!」

「あ……く……んんん……ッ!」

湯気が立ちそうな熱い精液が執拗にニャルラトホテプを汚した。
漸く射精が納まった時には、先程垣間見た背徳的な情景が目の前に在った。

「ふぅ、ふぅ……」

ショーツからびしょびしょの右手を引き抜く……冷静さを取り戻した真尋を、言い知れぬ後悔が襲った。

「ご、ごめん!ニャル子」

放心状態でへたり込んだニャルラトホテプに真尋は謝った。

「にゃる……!?」

今度は真尋の言葉が物理的に遮られた。

「むぐっ!」

真尋の顔がニャルラトホテプの胸に強引に抱かれる。
細い、華奢な腕からは想像も出来ない力だ。
もがく動きは徐々に弱まり、
優しく頭を撫でられるに至り、真尋は抵抗を諦めた。

「……ニャル子」

「私は真尋さんだけのものですよ……!」

「……ッ!」

「えへへ……強引なのもステキです!」

そうして、優しくキスを落とした。


「さっ、風邪を引く前にお風呂に入りましょう!」

にこやかに微笑むニャルラトホテプに、
真尋はただ頷くことしかできなかった。

─ ─ ─ ─ ─ ─ ─

405 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2016/07/16(土) 07:22:07.38 ID:NOd/0OfW
「………」

ベッドに腰掛けた真尋は手持ちぶたさに視線をさ迷わせた。
シャワーでお互いを洗いあったあと、真尋が先にバスルームを後にした。

『お楽しみはこれからですよ♪』

ニャルラトホテプの言葉が頭から離れない。
お楽しみ……改めて真尋はその事に思いを馳せてはこそばゆい気持ちを味わった。
普段なら着ないガウンを羽織り、生乾きの髪をタオルで拭う。
一見すると普通のホテルであったが、よくよく観察すると様々な『機能』に気付く。
その中でも真尋が気になったのは壁にかかった大きなスクリーンとリモコン。
どうやら通常のテレビは写らないらしく、館内のプログラムがいくつかと、
フロントへの簡単な問い合わせも可能な様であった。
その中には様々なルームサービスのメニューもある。そう、様々な……。


食事、身の回り品……コスチューム、ローション、
大人の……これ以上はいけない。

406 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2016/07/16(土) 07:29:34.58 ID:NOd/0OfW
真尋はリモコンを戻すと、室内に時計が無いことに気が付いた。そして、ベッドの枕元に並ぶ様々なボタンにも。

「BGM?」

真尋が何の気も無しにボタンを押すと、小川のせせらぎと小鳥のさえずりが室内に響いた。
もう一度ボタンを押すと、今度はジャズ。真尋は少し思案してもう一度。

おどろおどろしいBGMに謎のピコピコ音。
まるでエンブレムの前で戦闘員が敬礼していそうな……誰の趣味だ……次。

ゆったりと静かなピアノの旋律……二人っきりでムードに浸るには丁度良いBGMだ。
……例えば、シャワーで火照った二人が寄り添いあい、甘い言葉で愛を囁くには……。

「……ちょ、ちょっと、部屋が明るいかな」

どきまぎし始める心を抑えて、ランプのマークを押す真尋。
その瞬間、世界が暗転した。

「おわっ!」

「真尋さん?」

バスルームからニャルラトホテプが呼びかける。
どうやら部屋の明かりを全て消灯してしまったらしく、室内で光っているのはベッドの操作盤と冷蔵庫の足元灯くらいだ。

「ご、ごめ……今点けるから……」

「慌てなくても大丈夫ですよ!」

足音と共に声が近くなる。

「うっ……」

微かに見える柔らかな輪郭、暗闇の中でもその魅惑的な肢体が分かる。
真尋と同じくガウン姿のニャルラトホテプは真尋の側に腰掛けると、乾きたての髪を左右に流した。
えも言われぬ甘やかな香りが広がる。

「んふふ……」

真尋はごくりと唾を飲み込んだ。

「ニャ、ニャル子……」

「真尋さん……」

目が慣れてきたのだろう、薄明かりにぼんやりと潤んだ碧眼にしばし見とれる。
手探りで重ね合い、もつれる手と手。
何か気のきいた言葉を囁こうとしてしたが、頭の中は真っ白だ。

「キス……してもいいです……か?」

「い、いちいち聞くなよ……そんなこ……ん……」

407 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2016/07/16(土) 07:36:30.60 ID:NOd/0OfW
「お、おま……なんつーカッコを」

明かりを点けた真尋は目を剥いた。

「えへへ……」

ニャルラトホテプはガウンをはだけると、挑発する様な視線を真尋に投げる。
下から現れたのは薄桃色のシルクのショーツと揃いのブラジャー。ガーターベルトと、ストッキング。
その姿はやや幼さの残るニャルラトホテプの顔には不釣り合いなほど、艶やかだ。
……脱衣所で時間がかかっていたのはこの為の様だ。

「あ、バレました?」

肯定された。

「……どうです?」

ウザったいドヤ顔でウィンクをキメるニャルラトホテプに真尋はたじろいだ。

「ど、どうって……」

「おや?お気に召しませんでしたか?」

「ん……気に入るとか、そういうのとは……」

「ん~~。おやおやおやおや~~?」

この場合視線を外せば負けだ。
このニャルラトホテプの態度は真尋を恥ずかしがらせようとしているのは明白だからだ。
今にも涎を垂らしそうな好色家じみた笑顔の裏にあるのは羞恥心の裏返しであり、
真尋がこの色仕掛けに屈するか、逃げの一手に出る事がニャルラトホテプの狙いなのだ……

あっ……詰んだ。

「…………あーーっ、もう!」

「うひゃあ!」

「調子に乗るなよ!この……!」

「うへへへへ」

「……ッ!」

押し倒し覆い被さる真尋に、待ってましたとばかりに両手を広げるニャルラトホテプ。
真尋は吸い込まれる様にその魅惑的な身体をかき抱いた。

408 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2016/07/16(土) 07:39:45.73 ID:NOd/0OfW
ニャルラトホテプを抱きしめ、独りゴチる真尋。

「?……何か言いましました?」

ハートのアホ毛を揺らしながら、うっとりと夢見心地でいたニャルラトホテプが聞き咎める。

「っ!……はぁ……ん」

真尋は答える替わりに左の耳たぶを噛んだ。

もにもにもに。

「にゃあぁぁ!」

痛痒感で身をよじるニャルラトホテプに真尋は畳み掛けた。
ブラの上から尖り始めた頂きを摘み、そのまま手の平で乳房を蕩かせる。
右手でお尻の肉ごとシルクの手触りを味わい、右脚をニャルラトホテプの脚に絡ませる。

「いっ!ああぁ!!」

ニャルラトホテプの身体が海老反る。
肌を粟立て、ベッドの掛布を掴み、堪え難い快楽にぞくぞくと身体中を震わせる。

「しゅ、しゅごッ……!ひっ!まひろしゃんの……っ!えう!!」

目に涙を浮かべるニャルラトホテプ。真尋は一切加減をしない。

「あっ!おっぱい……めぇえ!」

ニャルラトホテプの乳首は真尋が最初に知った彼女の性感帯だ。
勃起した頂きを強く責めると、彼女の身体から力が抜ける。
本当ならば舌も動員したいところだが、生憎と口はもう一つの性感であるうなじの攻略で塞がっている。

「ふぅーーっ!ふぅうぅっ!!」

ニャルラトホテプの腰がくねる。
内股を擦り合わせ様とする動きを右足で邪魔し、切なく震える下半身を右手でおさえる。

「やぁ!やぁん……!!」

(……ムードもへったくれもないな)

真尋はもう一度、独りゴチた。

─ ─ ─ ─ ─ ─ ─

次回の投稿に乞うご期待!

  • 最終更新:2016-07-17 21:50:17

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